大学生になったときのこと

オトナへの一歩

私は大学生になって、実家を離れ、人生初のアルバイトを始めました。アルバイト内容はアパレル店での接客業務です。なかなかマニュアルの多いお店だったため、毎出勤ごとに確認しなくてはならない書類も多く、そのすべてにチェック印を押すために印鑑が必要になりました。

一人暮らしということもあり、実家から印鑑は持ってきていたのですが、契約用のためシャチハタではありません。そこで自分で買い求めることにしました。しかし私の苗字は少し変わったもののためか、100円ショップには売っていません。そこではじめてハンコ屋の戸を叩きました。

小さなハンコ屋さんで、年配のおじい様おひとりで営業なさっていました。ただの安いシャチハタを買いに来た年端もいかない私に、そのおじい様は丁寧にお話を聴いてくださいました。そして私のためのひとつの印鑑を手にそっと渡してくれると同時に、少し照れくさそうな笑顔で「お仕事がんばるんだよ。ハンコは君のサインだからね。」と声をかけてくださいました。少し面喰いながらも、しみじみと、これが私の大人のサインになるのね、なんて考えながら家へと帰ったのは今ではいい思い出です。 ただのシャチハタ、されどシャチハタ。変わった名字がポンポンと出てくる魔法みたいなその道具は、私の大人のシルシになりました。